「報告」に関する質問状の提出、その後の経緯など
日本学術会議の臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会は2017年9月に「報告 子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題 -現在の科学的知見を福島で生かすために-」(以下、「報告」)を発表しました。「報告」は発表後、資源エネルギー庁のウェブサイトで「科学的視点で見る福島の『被ばくの影響』とは~日本学術会議の報告書が出ました」と紹介されたり、一部のメディアが「科学界の結論」と取り上げたりするなど、注目を集めました。また、福島県県民健康調査検討委員会でも提出や引用がなされました。
この「報告」には、次のような問題点がみられました。
・「報告」が日本学術会議の総意と受け取られていること
・分科会の委員の人選の偏り
・日本学術会議から発出されたほかの提言との整合性
・倫理や権利に関する用語の定義を明確にしないまま使用
・基礎とした文献の偏り
・被災者に責任を帰していること、被災者の意思が無視されていること
・学術的な検討を踏まえていないこと
・正確な記述でないこと
・甲状腺検査に関連し、正確な情報に基づかない分析と見解を述べている
・恣意的な文献の引用の問題
これらの問題点について、2018年3月に6名(うち4名が原子力市民委員会の委員、部会メンバー、アドバイザー)の起案者と37名の研究者・臨床医師などの賛同者が、日本学術会議の会長および幹事会に対して質問状を提出しました。
■「日本学術会議の総意を表すものではない」との回答
日本学術会議の幹事会では、質問状について複数回審議が行われ、8月20日に正式な回答がありました。回答には、「報告」は学術会議内での位置づけ上、「必ずしも学術会議の総意を表すものではありません」との文言はありました。しかし、質問事項への具体的な回答につながるものではありませんでした。
■日本学術会議全体として、放射能対策に取り組むよう要望書を提出
そのため、起案者は日本学術会議の会長・幹事会に対し、子どもの放射線被ばくをはじめとする放射能対策の問題については、一つの部の下の分科会レベルではなく、日本学術会議全体として長期的に取り組むよう求める要望と回答への返信を10月22日に提出いたしました。
■科学者コミュニティとしての役割を期待
質問状が投げかけた様々な問いについて、日本学術会議の委員会や分科会などの複数の場で検討が行われています。子どもの放射線影響をはじめとする被害の実相の解明および対策への道筋、被災者の希望にそった支援策のあり方など、東日本大震災・東電福島原発事故がもたらした多くの課題が残されています。事故を起こした当事国の科学者コミュニティの役割として、広く学際的な視点で、長期的に審議を重ね、フォローアップしていく場が設置されるよう、日本学術会議に対して働きかけていきたいと考えています。
関連ウェブリンク
●(2017/9/1)日本学術会議臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会「報告 子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題−現在の科学的知見を福島で生かすために」
●(2018/3/28)「報告 子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題−現在の科学的知見を福島で生かすために」に関する質問
●(2018/8/20)日本学術会議会長・幹事会「『報告 子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題−現在の科学的知見を福島で生かすために』に関する質問起案者・賛同者各位」
●(2018/10/22)日本学術会議会長・幹事会への要望、およびいただいたご回答(8/20)に対する返信
質問状等の起案者
崎山比早子/元東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員(医師、細胞生物学)、原子力市民委員会アドバイザー
島薗進/上智大学教授(近代日本宗教史、死生学)、原子力市民委員会委員
瀬川嘉之/市民科学研究室・低線量被曝研究会
濱岡豊/慶応大学教授(マーケティング・リサーチ)、原子力市民委員会福島原発事故部会メンバー
満田夏花/原子力市民委員会座長代理
吉田由布子/「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク事務局長
※本件の提出主体は上記の起案者であり、原子力市民委員会は事務局として協力しています。起案者による福島原発事故の健康影響に関連した著作・論文リストはこちらからご覧ください。