福島県に提出・意見交換を行い、記者会見を開催しました
2018年6月6日、原子力市民委員会の満田夏花座長代理、筒井哲郎原子力規制部会長、菅波完原子力規制部会コーディネーターは、福島県庁を訪問し、声明「トリチウム水は大型タンクに100年以上保管せよ」、「福島第一原発構内のトリチウム水海洋放出問題 論点整理」を提出し、福島県危機管理部原子力安全対策課および福島県農林水産部水産課との意見交換を行いました。
その後、福島県政記者クラブで記者会見を開催し、声明の内容の説明や、県担当者との意見交換の報告などを行いました。
なお、本「声明」と「論点整理」は電子政府の総合窓口を通じて、経済産業省および原子力規制委員会にも提出しています。
福島県原子力安全対策課、水産課との 意見交換の様子 |
福島県庁記者クラブでの記者会見の様子 |
1.最近の動き
福島第一原発事故サイトでは、燃料デブリの冷却水と原子炉建屋およびタービン建屋内に流入した地下水が混ざり合い、大量の汚染水が発生している。これらは、放射性物質除去装置にかけた上で汚染水タンクに「処理水」として貯蔵しているが、除去できないトリチウムを含んでいる。貯蔵されている「処理水」は過去7年間に総量100万㎥を超え、敷地内に1,000㎥のタンクが林立している。その結果、タンクを増設する用地はあと3年弱でなくなる見込みだという1。そこで、当事者たちは、海洋放出の環境づくりに奔走しだしたと報じられている。
この問題は、早い段階から認識されており、政府(経済産業省 資源エネルギー庁)の「汚染水処理対策委員会」の下に「トリチウム水タスクフォース」が設置され、2016年6月に「トリチウム水タスクフォース報告書」が発表された2。
2017年末に、原子力規制委員会の更田豊志委員長は、福島県内の自治体との意見交換会において、処理済み水の海洋放出に科学的問題はないとした上で、東電が年内にも処分方法を決断すべきだとの考えを発信していた3。さらに同委員長は、1月17日の定例記者会見で、放出判断の先送りが続く場合、「福島第一の廃炉は暗礁に乗り上げる」と懸念を示した4。
朝日新聞社と福島放送が、福島県民を対象に、去る2月24、25日に電話で世論調査を行った結果、福島第一構内のタンクにためてある「処理水を薄めて海へ流すことへの賛否を聞くと、反対が67%で、賛成19%を上回った」5。
2.毒性に関する諸論
トリチウムの人体に及ぼす影響については、それが細胞レベルの内部被ばくであり、他の放射性物質による被ばくと同時に起こることが多いために、疫学調査において十分な知見が確立されていない。海洋放出の際の告示濃度限度は60,000 Bq/Lとなっているが6、これは、安全性が検証された数値とはいいがたい。飲料水の規制基準値も規制機関によって大きな違いがあり、WHOは10,000 Bq/L、カナダ政府は7,000 Bq/L(Ontario Drinking Water Advisory Councilの勧告は20 Bq/L)7、EUは100 Bq/Lとなっている8。
3.トリチウム水の取り扱いに係る選択肢と評価
上記「トリチウム水タスクフォース報告書」は、大別して5種類の処分方法を挙げ、それぞれの概念設計と概算見積を記載している。しかし、いずれも良策とはいいがたい。
原子力市民委員会は昨年12月に、特別レポート1「100年以上隔離保管後の『後始末』」(改訂版2017)を発行した9。その中で、トリチウム汚染水については、現在有害性に関して諸説ある中で海洋放出を強行するのではなく、十分な検証を尽くすまで恒久的なタンクの中に保管することを提案した。
具体的には、国家石油備蓄基地で使用している10万トン級の大型タンクを10基建設して、その中に123年間保管すれば、トリチウムの半減期は12.3年であるから、タンク内のトリチウム総量は現在の1/1,000に確実に減衰する。この値は、福島第一原発事故発生以前の8年間に、同原発のサイト全体から海洋放出されていた年間最小値を下回る。そのような保管を行って十分に減衰するのを待つことを提案した。20年に一度程度の開放点検を行うために、1基余分に建設するとして、建設単価を約30億円/基とすれば11基では約330億円となり、凍土壁のコスト345億円と大差ない金額となる。なお、タンクの事故に備えて周囲に防液堤を設けるなどの設計仕様は、すでに国家備蓄基地において実績ある手法が適用できる。放射線減衰割合をさらに必要とする場合は、寿命が来た時にさらに同様仕様の保管タンクを設ければ、その後の123年間のタンク保管でさらに1/1,000のオーダーの放射線減衰が期待できる。
地震に対する安全性については、現在、実用化されている方法と同様に防液堤を設けて、万一の漏出に備えることが現実的である。建設場所に関しては、福島第一発電所の7・8号機建設予定地を利用することが可能と考える。また、大型タンクは敷地面積に対する容積効率が、既設の1,000トン容量のタンクに比べてはるかに高いので、既設タンクの解体と新設タンクの建設を交互に進めれば、既設タンクのエリア内で置き換えることも可能と考える。
4.まとめ
トリチウム水の毒性については、すべてのことが解明されているわけではない。毒性のあるものは自然界に拡散させるのではなく、集中管理し、極力、無毒化した後に自然界に放出するというのが、長年にわたる公害問題において学びとってきた原則である。上述の原子力市民委員会の提案は、技術的にも経済的にも既存の工業レベルで実績があり、もっとも安定的な方法である。
冒頭で述べたように、地元福島県の世論調査で67%が海洋放出に反対している現状において、原発事故の責任を負うべき政府と東京電力が一方的な判断を下して、海洋放出を行うことは道義的にも許されないことである。
1 「汚染処理水 迫る決断の時」『日本経済新聞』2018年2月23日
2 「トリチウム水タスクフォース報告書」2016年6月
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/tritium_tusk/pdf/160603_01.pdf
解説版は「トリチウム水タスクフォース報告書について」2016年11月11日 など
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/001_03_00.pdf
3 「放出など処理水対策を 東電に対応促す」『電気新聞』2018年1月16日
4 「福島第一処理水放出の判断必要」『電気新聞』2018年1月18日
5 「放射性物質に不安、66%『感じる』 福島県民世論調査」『朝日新聞』2018年3月3日
6 「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」経済産業省告示 第187号
2001年3月21日。「別表第2」にトリチウム水の濃度限度60Bq/cm3(つまり、60,000Bq/ L)とある。
7 “Report and Advice on the Ontario Drinking Water Quality Standard for Tritium”, May 21, 2009
8 Canadian Nuclear Safety Commission, “Tritium in Drinking Water”, August 20, 2009
http://nuclearsafety.gc.ca/eng/resources/health/tritium/tritium-in-drinking-water.cfm
9 2017年11月11日発行、p.7
http://www.ccnejapan.com/?p=7900
本件に関する問い合わせ先:
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