2013年12月18日
緊急声明
政府は原発ゼロ社会の実現をめざし、民意を反映した
新しい「エネルギー基本計画」を策定せよ
内閣総理大臣 安倍晋三殿
経済産業大臣 茂木敏充殿
原子力市民委員会
経済産業省の審議会、「総合資源エネルギー調査会」(事務局:資源エネルギー庁)が、12月6日に開催した基本政策分科会において、「エネルギー基本計画に対する意見(案)」とする事務局素案が突如公表され、12月13日までにわずか2回の審議で「エネルギー基本計画に対する意見」(以下、「計画案」)の取りまとめが行われた。さらに6日付の事務局素案により、そのまま新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた意見募集(パブリックコメント)が経済産業省資源エネルギー庁により開始されたが、13日の審議結果により、後付けでパブコメの対象となる文章の差し替えが行われる異例の事態となった。
この新しい「エネルギー基本計画」の策定は、今後の国のエネルギー政策(原子力政策や核燃料サイクル政策を含む)の方向性を決める重要なものである。しかし、この計画案では福島原発事故の深刻な被害を十分に踏まえず、原子力発電の持つ様々なリスクや核燃料サイクルの問題点を軽視した上で、なお原発や核燃料サイクルを維持するとされている。この計画案を基に経済産業省内や関係閣僚会議で新しい「エネルギー基本計画」を策定し、閣議決定することは、決して見過ごすことはできない。
原子力市民委員会(以下、「当委員会」)では、すでに2013年6月に緊急提言「原発再稼働を3年間凍結し、原子力災害を二度と起こさない体系的政策を構築せよ」を、2013年10月には、「原発ゼロ社会への道――新しい公論形成のための中間報告」を発表しており、2014年4月に発表予定の「脱原子力政策大綱」策定に向けて、原発ゼロ社会を実現するための様々な検討を行っている。政府は、「原発依存度を可能な限り低減させる」という方針を、責任を持って実施するため、この計画案のうち原発や核燃料サイクルの維持に関する部分を却下した上で、大多数の国民が原発ゼロ社会を望んでいるという明確な民意をふまえ、新しい「エネルギー基本計画」を策定すべきである。
1.策定プロセスの問題点~「原発ゼロ社会」への国民の意思を無視
この計画案の策定プロセスには、基本政策分科会での審議のあり方を含め多くの問題点があると言わざるを得ない。福島原発事故による深刻な被害を踏まえて2011年10月から33回にわたり行われた基本問題委員会における審議や、2012年夏の「エネルギー・環境の選択肢」に関する国民的議論の結果である「原発ゼロ社会」への明確な国民の意思、それを受けて同年9月に策定された「革新的エネルギー・環境戦略」における「原発ゼロ」の方針等がほとんど無視され、「原発維持」というまったく逆の結論が全面的に打ち出されている。それまで基本問題委員会に在籍していた原子力政策への慎重派委員を大部分入れ替えて、福島原発事故に対する現実感や危機感を欠いた審議が行われ、原発の維持を前提とした委員の意見がそのまま数多く採用された内容となっている。事務局素案の段階でパブコメが開始されたことにあらわれているように、昨年夏の「国民的議論」の結果を無視し、「原発ゼロ社会」を求めている国民の意思を無視した策定プロセスとなっている。
2.計画案の内容の問題点
基本政策分科会(12月6日)で示された事務局素案に基づき、12月13日までにわずか2回の会合で取りまとめが行われたこの計画案には、当委員会のみならず多くの専門家や識者によってこれまで指摘されてきた原子力政策に対する多くの論点や検討項目が含まれておらず、含まれている項目も不十分な内容となっている。まずこの計画案の内容の根本的な問題点として以下の2点を示す。
(1)エネルギー政策における原子力の位置付けの幻想
この計画案では、原子力発電を「準国産エネルギー源」として、「優れた安定供給」、「効率性」、「運転コストが低廉」、「基盤となる重要なベース電源」と位置付けているが、これらは3.11以前の電力需給体制や「安全神話」に基づいたものであり、その根拠が示されていないばかりか、福島原発震災を経た現状認識として、まったく非現実的である。むしろ過酷事故を起こせば修復不可能な被害をもたらすこと、核廃棄物の処理・処分が困難であり、後始末コストが不確実であること、大規模な自然災害などに対して脆弱であることなどの「原子力発電の弱点」 に基づけば、これらの位置付けは幻想に過ぎず、「原発ゼロ社会を実現すべき理由」がより明確になる。
(2)核燃料サイクル政策の継続は困難
原発維持と核燃料サイクル政策は密接な関連があるため、この計画案では、核燃料サイクル政策の着実な推進が原発維持のために必須となっている。しかし、これまでの核燃料サイクル政策では、使用済み核燃料の貯蔵施設の限界、運転不能の高速増殖炉「もんじゅ」や、営業運転入りさえできない再処理工場、そして受け入れ先のない放射性廃棄物の処分場など多くの問題を抱えており、現実的に継続することは困難である。核燃料サイクル政策を中止し、原発ゼロ社会の実現をめざした上で放射性廃棄物の処理や処分を検討することが現実的な選択肢である 。
さらに、当委員会でのこれまでの検討結果である中間報告 を踏まえて、この計画案に対して以下の4点の問題点を指摘する。
(1)福島原発事故による深刻な被害の認識が不十分
この計画案では福島原発事故の深刻な被害に対する認識が不十分であり、短期的かつ表面的な経済影響などへの認識にとどまっている。広域におよぶ放射能汚染、生活環境と生活システムの喪失、ふるさとの喪失、原発関連死、生業の喪失、農業・畜産業・林業・漁業・観光産業等への打撃など福島原発事故の全容と「人間の復興」の困難さを踏まえることが重要である 。
(2)原子力規制委員会の新規制基準の下で安全性は確保できない
この計画案では、独立した原子力規制委員会によって「世界で最も厳しい水準」の新規制基準の下で安全性が確認された原発については、再稼働を進めるとしている。しかし、この新規制基準は、立地指針を無視していることなど、ある部分では、安全性の面でむしろ後退している。そもそも、原子力規制委員会は新規制基準への「適合」を審査するのみで、安全を保証するものではない。さらに、周辺自治体の同意手続きや防災計画にも多くの問題がある。新規制基準や原子力規制体制そのものの問題点 をまず認識すべきである 。
(3)福島原発事故に関する国と事業者の責任を明確にすべき
福島原発事故に対する国と事業者の責任が曖昧なまま、廃炉や汚染水問題など福島原発事故の収束に対して国が財政措置を実施するとしている。原子力政策に対する国民の信頼が低下するなか、むやみに国民負担を増大させている今の無責任体制を認識し、福島原発事故への国と事業者の責任を明確にした上で、新たな法制度や体制をできるだけ速やかに構築する必要がある。
(4)原子力損害賠償制度の見直しを先送りしている
福島原発事故でその仕組みの不十分さが露呈した原子力損害賠償制度については、根本的な見直しの必要性が明らかになっている。当委員会やNGOに限らず、多くの有識者が指摘しているように、被害者の救済を最優先とし、福島原発事故のような深刻かつ広域の被害の完全補償・救済を可能とする制度とすべきである。原発の事故リスクは、本来、原発の「コスト」に十分に反映されるべきものであり、制度の見直しにおいては、数10兆円とされる福島原発事故の被害総額を十分に考慮する必要がある。
3. 原発ゼロ社会の実現をめざす新しい「エネルギー基本計画」を策定せよ
ドイツの倫理委員会が福島原発事故に直面して下したのは、原発は巨大な損害のリスクが高く、倫理的にも許されないという結論であり、そのことがドイツの脱原発政策を決定づけた。また、日本政府の提唱する「3E+S」など他の原則に照らしても、原発は劣ったエネルギー源であり、維持する理由がないことは明白である。政府は、原発の維持という愚かな選択から速やかに抜け出し、化石燃料の本格的な削減と効率的利用を進め、気候変動政策を先送りせず、中長期的な目標を定めた上で省エネルギーと再生可能エネルギーを主軸とするエネルギーシフト(転換)を本格的に進めるべきである。そのために、原発ゼロ社会の実現をめざす新しい「エネルギー基本計画」を、民意を十分に反映した上で策定し、持続可能な社会を目指す道へと舵をきることを政府に強く求める。
以上
【参考資料】
・原子力市民委員会「原発ゼロ社会への道――新しい公論形成のための中間報告」
(2013年10月) http://www.ccnejapan.com/?page_id=1661
・原子力市民委員会「原発再稼働を3年間凍結し、原子力災害を二度と起こさない
体系的政策を構築せよ」(2013年6月) http://www.ccnejapan.com/?p=1107
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