作成:原子力市民委員会 政策調査部会 執筆者:松久保 肇 協力者:大島堅一、竹村英明、吉田明子、明日香壽川
2013年4月、「電力システムに関する改革方針」(以下、「改革方針」)が閣議決定され、①広域系統運用の拡大(2015年)、②小売及び発電の全面自由化(2016年)、③送配電部門の法的分離(2018~2020年)という3つの大きな方針が示された。2020年、この電力システム改革は一応の完了を迎えた。
2015 年に成立した第3 弾の改正電気事業法では、①小売全面自由化前、② 2020 年4 月の送配電部門の法的分離前、③法的分離後5 年以内、の各時点で法施行の状況やエネルギー基本計画の実施状況、需給状況、料金水準等についての検証を行い、その検証結果を踏まえ、必要な措置を講ずる旨を規定しており、これまでに2 回の検証が行われた。2020 年の法的分離から2025 年4 月で5 年を迎えることになるため、現在、電力システム改革の最終的な評価が、経済産業省電力・ガス基本政策小委員会で行われている。
2020 年までに実施された一連の電力システム改革の起点である2013 年に示された改革方針には、①再生可能エネルギーの導入を進める中でも、安定供給を確保、②電気料金の最大限抑制、③需要家(電力消費者)の選択肢や事業者の事業機会を拡大、という3 つの目的が示されていた。
では、4 年経った現在、そうした目的はどうなっているのか。結論を先に述べれば、再生可能エネルギーの導入拡大は道半ばで減速する一方、安定供給も達成されず、電気料金は抑制されなかった。また、需要家にとっての選択肢は一定程度増加したものの、減少傾向にある。事業者にとっても事業機会が十分に拡大していない。総じて、電力システム改革の理念が置き去りにされていると言えるだろう。
本レポートでは、1.で2016 年の全面自由化から現時点(2023 ~ 2024 年)における電力所有の割合、販売電力量のシェア、売電単価の推移、再生可能エネルギーの導入状況の変化、小売り電気事業者数の推移および各市場の現状を分析する。2.では、送配電分離・中立化の課題について、3.では、福島原発事故が電力自由化にもたらしたゆがみについて振り返り、4.で電力システム改革への提言をおこなう。
原子力市民委員会が2020年4月に発表した特別レポート6『原発を温存する新たな電力市場の問題点』のなかで、我々は、電力システム改革の目的は、電力の安定供給と、市場競争導入による電力価格抑制を両立することにあり、そのためには、旧一電と新電力の競争環境を整え、脱原発・脱石炭に向けた制度を整えるべきだと指摘した。だが、当時も現在も、電力システム改革と称して実施された政策は、原発と石炭火力を中心にすえた現状の電力供給構造を維持するためのものが多数を占める。 世界が再生可能エネルギー中心の電力システムに向かう中、日本だけが、旧来型の大規模集中型電源に固執し続けている。このような政策は、日本の近未来に巨大な負の資産を押し付けることになる。 (本文「はじめに」より)
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