2024年11月15日
【共同抗議声明】JERAの電力市場の市場操作に対する業務改善勧告を受けて JERAは電力価格を吊り上げ消費者や新電力事業者に甚大な不利益をもたらしたNPO法人 気候ネットワーク NPO法人原子力資料情報室 原子力市民委員会 国際環境NGO FoE Japan 電力・ガス取引監視等委員会は11月12日、日本最大の発電事業者「JERA」が卸電力取引所が開設する翌日市場(スポット市場)において、市場相場を変動させる認識を持ちながらも、停止する発電ユニットの余剰電力の一部を供出していなかったことについて、同社に対する業務改善勧告を行った。 国のガイドラインでは、大手電力会社に対し、需要を超えて発電した「余剰電力」が出た場合に、そのすべてを市場に流通させることが定められている。しかし、JERAは設立当初の2019年4月から2023年10月までの間、余剰電力全量の市場供出を行っていなかった。これにより、最も影響が大きい時では取引価格が1kWh当たり、50円以上値上がりした可能性があると指摘されている。 JERAは、この原因について「システムの設定不備」だとするが、実際には2019年4月には社員による指摘があり、遅くとも2022年2月には未供出状態であることを認識していた。それにもかかわらず、市場優位性を持つJERAは、この問題を長期間にわたり放置した。この結果、電力市場に与えた影響は非常に深刻であり、JERAの責任は重い。相場操縦は、金融であれば課徴金などの罰則はもちろん、場合によっては刑事処分に値する。 とりわけ、2020年末から21年1月半ばに起きた未曽有の電力価格の高騰では、多数の新電力が経営危機に陥った。JERAはこの間にも電力価格の高騰で利益を得る一方、電力システム改革後に進んでいた新電力市場は価格高騰の度に淘汰されることにつながった。電力・ガス取引監視等委員会はこの価格高騰について検討会を7回開催し、「問題となる行為は確認されていない」こと確認した上でさまざまな結論を導いているが、この前提が覆ったことになる。 JERAは、自らの市場優位性を利用して意図的に価格操作を行った可能性を否定しているが、結果的にJERAの行動が電力市場の競争を歪め、電力システム改革以前の旧一般電気事業者による地域独占の圧倒的支配力を維持し続け、価格に影響力を持たない小規模の地域電力などの成長の機会を奪うことになった。さらに、電力価格の高騰は、消費者にも甚大な不利益をもたらした。この点について、政府はJERAが正当に余剰電力全量の市場供出を行っていた場合にどのような価格になっていたかをコマ(30分)単位で詳細に検証すべきである。 日本において急激な電力価格の高騰が起きているにもかかわらず、電力・ガス取引監視等委員会が、本件を現在に至るまで放置してきた責任は大きい。この間、「供給力不足」「電力不足」などとして火力発電を増強するような政策が次々と創設されたり、原発の再稼働・新設が必要であるかのような方針が示されたりしている。これらは、電力価格高騰の分析や見極めを見誤ったことに一因する可能性もある。市場で圧倒的に優位な立場にある大手電力会社が同様のことを行っていた可能性もあるので、全電力会社に対する調査を徹底して行うべきである。 実際、電力・ガス取引監視等委員会は2023年6月に公表した「関西電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社、中国電力株式会社、九州電力株式会社及び九電みらいエナジー株式会社に対する業務改善命令に係る報告書」で「関西電力が 2017 年 10 月に行った経営層が参加する会議に配布された資料において、『各社が(ベースも含めた)供給力の絞込みを行い、需給構造の適正化、ひいては市場価格の適正化を実現することが重要(これにより、固定費を持たず、インバランスに依存するような新電力を市場から退出させるとともに発電設備を有する我々の収益も一定程度改善することが期待)。』との文言が記載されており、この資料に基づく方針が承認されたことが認められた。」と事実認定している。最低でも、この方針に基づき関西電力はどのような行動を行ったのか、市場にどのような影響を与えたのかは詳しく検証されるべきである。 また、電力・ガス取引監視等委員会のみならず、市場を運営する日本卸電力取引所(JEPX)の監視機能が働いていないことも問題である。昨年12月にも、電力・ガス取引監視等委員会は関西電力に対して、複数回市場に誤発注を行い、コマによっては最大 30 円/kWh 程度約定価格(関西エリアプライス)を上昇させ、システムプライスについても最大 27 円/kWh 程度上昇させたとして、業務改善勧告を行っている。だが、JPEXは関西電力から報告を受けるのみで、誤発注を自ら発見することができていない。適切な監視能力の無い機関に市場を運営する資格はない。 なお、こうした重大な問題が4年以上明らかにされず、今回、内部からの指摘によって明らかになったことは、特に注目されるべきである。電力ガス取引監視等委員会は、JERAに対して業務改善勧告を行っているが、勧告にとどまらず、不正によって生じた収入の返還や罰金を科すべきである。 今後、日本の電力市場において、公正な競争環境をつくり、大手電力会社が価格操作を行うような不当な状況が生まれないよう、徹底した調査と情報公開、さらに大手電力会社への規制強化、監視体制の強化を求める。 |