2023年8月22日
緊急声明「 関係者との合意を無視した海洋放出決定は最悪の選択である 」
原子力市民委員会
1.関係者の理解が得られたとは到底いえない。
本日、日本政府は、福島第一原発から発生するALPS(多核種除去設備)処理汚染水の海洋放出を早ければ8月24日から開始することを関係閣僚会議で決定した。今回の決定は、「漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」とした福島県漁連に対する政府回答(2015年8月24日)での約束に明らかに反する。約束を平然と蔑ろにするような今回の海洋放出決定は、福島原発事故で被害を受けつづけてきた人々の苦しみをさらに増幅させるものである。
2.海洋放出は、環境汚染を拡大させるばかりか、問題の根本的な解決にならない。
放出する「ALPS処理水」は、トリチウム以外の放射性核種を排出基準値以下まで取り除いたものであるとされている。しかし、現在、未処理の汚染水(政府のいう「処理途上水」)が大量に存在し、その汚染状況の把握・分析すら、まったく不十分である。政府の見込み通りに、「処理途上水」を二次処理して放射性核種を確実に取り除くことができるか、明らかではない。
さらに、ALPSによる処理・二次処理により汚泥、吸着材等の高濃度の放射性廃棄物が大量に発生している。これらの処分は今のところ見通しがたっていない。このような問題を放置したまま「ALPS処理水」の海洋放出を開始したとしても、福島原発事故で発生した膨大な汚染物質の解決にはならない。
3.海洋放出は、福島第一原発事故における汚染水問題の最適な解決策ではない。
海洋放出には長い年数を要する。東京電力の資料によれば、30年以上の期間を要する。汚染水の発生が止められていない以上、放出期間がこれよりさらに長くなる恐れも大きい。その結果、汚染水のタンク保管が長期化する。
加えて海洋放出には莫大な費用がかかる。海洋放出の処理費用は、2016年の経産省のトリチウム水タスクフォースで34億円と見積もられていた。ところが実際には、現時点で海底トンネル等の工事費約430億円、風評対策費約300億円、漁業者支援基金500億円がすでに計上され、合計で1200億円を超える。今後30年以上の経費をあわせたコストの全貌は明らかにされていない。
4.原子力市民委員会は、ALPS処理汚染水の海洋放出に反対し、代替策の実施を求める。
政府・東京電力は、海洋放出ありきの姿勢をとり続け、汚染水の発生を抑制する対策に真剣に取り組んでこなかった。関係者との約束を反故にし、長い期間と巨額の費用を要する海洋放出は有害無益である。
原子力市民委員会は、汚染水対策として、陸上の大型タンクでの保管、またはモルタル固化による処分を選択するべきであると主張してきた。また、汚染水発生を抑止するためにデブリの空冷化が有効であるとも提言してきた。原子力市民委員会は、政府に対して海洋放出決定の撤回と代替策の実施を強く求めるものである。
以 上
なお、原子力市民委員会が7月18日に発表した「見解:IAEA 包括報告書はALPS 処理汚染水の海洋放出の「科学的根拠」とはならない 海洋放出を中止し、代替案の実施を検討するべきである」も参照されたい。
本件についての問い合わせ先:原子力市民委員会 事務局
〒160-0008 東京都新宿区四谷三栄町16-16 iTEXビル3F
(高木仁三郎市民科学基金内)
TEL: 03-6709-8083
Email: email@ccnejapan.com
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