原子力市民委員会「岸田政権による原子力政策の転換に関する声明」を発表しました

 

 原子力市民委員会は2022年12月21日、岸田政権が12月22日に開催予定のGX実行会議で推し進めようとしている原子力政策の転換に対し、声明pdficon_sを発表しました。
2022年12月21日

 

岸田政権による原子力政策の転換に関する声明 〜原発はなんの解決にもならず、問題を悪化させる〜

 

原子力市民委員会
座長: 大島 堅一  座長代理: 満田 夏花
委員: 荒木田 岳 大沼淳一  海渡雄一
金森絵里  後藤政志  島薗 進
清水奈名子 伴 英幸  松原弘直  除本理史

 

 

1.岸田首相は、福島原発事故被害の教訓を忘却し、原子力政策を転換しようとしている。  

2022年12月8日の原子力小委員会で示された「今後の原子力政策の方向性と実現性に向けた行動指針(案)」(以下、「行動指針」)は、12月16日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で了承された。これを受け、12月22日に開催される第5回GX実行会議で「行動指針」に示された方針が定められるとされている。岸田政権が定めようとしている政策は、1)原発再稼働の加速、2)原発の運転期間の延長、3)「次世代革新炉」の開発・建設の3点に集約される。岸田政権による原子力政策の転換は容認できない。

1)原発の運転期間延長、「次世代革新炉」の開発・建設は、安倍政権、菅政権においても示されなかった方針である。また、2021年10月に閣議決定したばかりの「第6次エネルギー基本計画」にも記載が無く、自公政権において「原発依存度を出来る限り低減する」としてきたこととも食い違う。岸田政権は、これまでの原子力政策を福島原発事故以前に逆流させようとしている。

2)政府は、柏崎刈羽6・7号機、東海第二等を、来夏・来冬までに再稼働するとしている。だが、東京電力は、柏崎刈羽原発におけるIDカード不正使用と核物質防護設備の機能喪失に関し、原子力規制委員会から処分を受けている。また東海第二原発は、水戸地裁での差止訴訟判決で、避難計画や防災対策に不備があるとされ日本原電が敗訴した。このように稼働の前提条件に問題を抱え、立地地域でも議論や検証が続いている原発の再稼働を、政府が一方的に決定することは許されない。

3)「次世代革新炉」であれ何であれ、原発の新増設についてはGX実行会議が開催されるまで政府自身によって否定されてきた。また、建設中の原発を除いて、原子力発電所の新規建設、建て替え計画を電力会社は持っていない。これは、原発のコストが高いため自由な電力市場の中で生き残ることができないからである。

4)原子炉等規制法を改正し、原発の運転期間(法定運転期間)を経済産業省が延長可能にすることは許されない。福島原発事故後の原子炉等規制法改正(2012年)は、当時野党であった自民党、公明党が法案策定に加わり、議員立法で成立した。当時の国会審議にあるように、原発の運転期間を40年(例外的に20年の延長とする)と定めたのは、原子力発電所の安全確保を目的としたものである。  立法趣旨に基づけば、法定運転期間は、原子力規制を担当する原子力規制委員会のもとで厳密に運用されなければならない。停止期間を運転期間から控除したり、法定運転期間を延長したりといった措置を経済産業省が講じることは、原子力規制を原子力利用の下に置くもので、原発事故の原因となった「規制の虜」を再びつくりだす。

2.ロシアのウクライナ侵攻で生じた化石燃料価格高騰や、自然災害・厳気象による電力需給ひっ迫に対して、原発推進は解決策とはならない。また、脱炭素を実現する上で原発は最も非効率、非現実的手段である。原発の運転、原発事故による負の遺産は膨大である。原発廃止により原発のリスクから解放され、カーボンニュートラルに向けた本格的対策が実施可能になる。

1)電力需給ひっ迫は、原発とは無関係である。 ●2022年3月、6月に発生した国内の電力需給ひっ迫は、前者は地震と厳気象(厳寒)、後者は厳気象(猛暑)によって発生した事象であり、いずれも原発とは無関係である。通常、3月、6月は、比較的需給が緩んでいるため、発電所のメンテナンスや点検が行われる。仮に原発が稼働していたとしても、同様の事象が起きたと推測される。緊急時の電力需要ひっ迫に対しては、デマンドレスポンスなどの需要対策を充実させることによって回避するべきである。 ●今冬、来夏の厳気象H1需要に対する予備率が1%台(推定値)になったことが大きくとりあげられ、あたかも常に電力不足になっているかのような誤解が国民に広がっている。厳気象H1需要とは、10年に一度の猛暑、厳寒におけるピーク時の需要である。したがって常時電力不足に陥っているわけではない。また既に2022年11月時点で厳気象H1需要に対して4%台(東北・東京)、5〜6%台(西日本地域)の予備率が確保されており、10年に一度の厳気象であっても電力の安定供給が保たれる見込みである。常時電気が足りていないかのような誤解は解くべきであり、ましてや、誤解に乗じて原発再稼働、原発新増設と結びつけて国民を誘導するべきではない。 ●再生可能エネルギーの中に太陽光や風力といった変動性電源が含まれているからといって、そのことが「電力供給の安定性」を妨げるものではない。欧州の経験が示すように、変動性電源が多く入っていても、電力システム全体で電力の安定的供給を達成することは技術的、経済的に現実に可能である。

2)電気料金(規制料金)の値上げや、電力市場での価格高騰は、化石燃料価格の高騰と円安、市場設計の不具合の総合的効果によってもたらされたものである。原発の再稼働や新増設ではこれらを解決できない。 ●電気料金(規制料金)には原発再稼働がすでに盛り込まれており、仮に原発が再稼働しても電気料金は下がらない。また原発再稼働の電気料金引き下げ効果はごく僅かであり、化石燃料価格変動による影響のほうが圧倒的に大きい。福島原発事故後、原発再稼働ではなく原発廃止を選択していれば、追加安全対策のための多額の資金投入をしなくてすみ、その分電気料金は下がっていたはずである。 ●新電力各社の苦境は、電力市場の価格高騰によってもたらされている。これは、化石燃料価格高騰に加え、大手電力会社が電源の8割を所有している状況の下で、電力市場が適切に設計されていないことが原因である。新電力各社は、電力市場設計の改善を求めており、政府はこれに誠実に対応すべきである。

3)原子力利用の拡大は再エネ・省エネへの投資意欲を減退させ脱炭素の妨げになる。カーボンニュートラルにとって効果的なエネルギー供給手段は再生可能エネルギーであり、省エネも重要である。発電部門における再生可能エネルギー100%は実現性が高い。ウクライナ危機後、再エネ・省エネ推進は世界的に強化されている。原子力発電を廃止し、全面的に再生可能エネルギー中心のエネルギー利用構造に転換し、省エネの一層の導入がなされなければならない。

4)福島原発事故後、原子力による発電量は大きく落ち込み2021年度には総発電電力量の6%程度にまで低下した。その結果、原子力産業は大きく衰退し、人員確保がままならないばかりか、企業の撤退が相次いでいる。日本において原子力を発電に利用する時代は終焉にさしかかっている。衰退産業は、国家によってすら維持できない。

3.原子力発電は本質的に危険をともなう技術である。40年の法定運転期間を取り払うことは、原子力発電の危険性を高める。「次世代革新炉」やSMR(小型モジュール炉)は、原子力発電のもつ問題(放射性廃棄物の発生、事故発生リスクの存在)を解決するものではない。

1)原発の40年運転ルールに「科学的な根拠がない」とする言説は、技術を無視した暴論である。もともと原発は設計寿命を30年ないし40年として建設された。福島原発事故後に40年以上の運転を原則として認めないとしたことは、原発設計の技術的事実をふまえた上で、福島原発事故の反省に立ち、原発依存を低下させるという政策判断を法制化したものであり、脱原発を志向する世論にも整合したものであった。

2)政府及び原子力規制委員会は、運転開始から30年を超えて運転しようとする原発について、10年ごとに行う検査で原発の健全性を検証し、安全性を確認する方針を示している。  しかしながら、原発の老朽化の検証には、他の産業設備とは比較にならない本質的な困難がある。すなわち、原子炉圧力容器などは交換による更新が不可能であり、放射線量の高い部位は作業員が直接検証することもできず、様々な仮定や計算によって将来の健全性を予測しているに過ぎない。そもそも福島原発事故後に定められた新規制基準にも、原子力規制委員会の審査にも、不十分な点が多々ある(詳しくは『原発ゼロ社会への道』参照)。10年ごとの検査で老朽原発の安全性の検証ができるとするのは、新たな「安全神話」に他ならない。  海外で原発の運転延長を認める事例があるとしても、地震や津波などの自然災害の条件が他国に比べても厳しい日本の原発に、海外での長期運転の事例はあてはまらない。

3)「次世代革新炉」がいかなるものなのかは判然としていない。この間の議論で「次世代革新炉」として語られている原子炉の多くは既に開発済みであったり、逆に開発段階にすらないものもあるなど、原子炉のタイプが雑多に含まれている。例示されるEPR(欧州型加圧水炉)は建設費用が高額である上に、建設期間が長く、追加的国民負担を要する。一方、SMR(小型モジュール炉)は実績がなく、経済性も疑問視されている。ましてや核融合炉で発電し、商業運転できるとするのは全くの幻想である。  「次世代革新炉」なるものを開発するには膨大な時間や資金を費やすことが不可欠であるうえに、それが商業化可能になるかどうかは見通せない。事実、これまで日本は新型炉開発に失敗し続けてきた。「次世代革新炉」が目論見通りに実現し、エネルギー供給に貢献するかのような議論は、根拠のない楽観論に過ぎない。「次世代革新炉」という実体のないイメージを先行させ、国民に幻想を与えるべきではない。

4.原子力政策決定プロセスに民主主義がないまま、非常に短期間のうちに政策をとりまとめようとしている。既設原発を設計寿命を超えて延命させ、さらに原発を新設することは、世紀をまたいで原子力発電を利用し続けることを意味する。国民的議論無くして22世紀、23世紀のエネルギーの将来を縛るべきではない。

1)GX実行会議は、2022年7月27日、8月24日に開かれ、第6次エネルギー基本計画に定められた原子力政策を逆転させる内容を示した。GX実行会議には、原子力発電に慎重ないし反対の意思を示す委員はいなかった。

2)GX実行会議の1ヶ月後の9月22日、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会が開催され、5回の会合を経て12月8日に行動指針(「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針(案)」)が取りまとめられた。原子力小委員会委員21人のうち、原発利用に慎重ないし反対の委員は2人にすぎない。12月16日には同基本政策分科会が開催され、行動指針が了承された。この間、国民への説明、国民からの意見聴取は全く行われなかった。

3)12月22日のGX実行会議で原子力政策の大転換を決定するとみられる。この政策の大転換を評価するために必要な情報を国民に知らせず、意見を聴取しないまま、ごく短期間のうちに議論を収束させ政策変更を行おうとするものである。

4)原子力事業は、建設(10〜20年)、運転(40〜60年)、廃炉(20〜30年)、放射性廃棄物処分(数世紀〜10万年)と少なくとも数世紀にわたり日本社会にリスクとコストを強いる事業である。非常に短期間のうちに、非民主的なやり方で将来世代を縛るべきではない。

以上
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