作成:原子力市民委員会 原子力規制部会 執筆者:筒井哲郎・滝谷紘一 協力者:高島武雄・後藤政志
福島第一原子力発電所の事故以来、メルトダウンした3 基の事故炉の後始末が、大きな技術上の難問となっている。そのことは、地元自治体の復興の条件としても社会問題化している。政府および東京電力(以下「東電」)は、事故炉の後始末について、「中長期ロードマップ」を定め、それに基づいて作業を進めつつある。その計画の中心課題は燃料デブリ(以下「デブリ」)の取り出しである。地元周辺住民が事故時にメルトダウンに伴う放射能飛散のために大規模な避難行動を余儀なくされた苦い経験から、そのような事態が再発しないようにデブリを取り出してサイトから搬出してほしいと地元自治体などが要望し、政府と東電がそのことを約束している。しかし、その実現性に技術的裏付けがあるわけではない。
その後10 年間、デブリの位置・形状に係る現場調査や、取出しのためのロボット開発が営々と積み重ねられてきた。しかし、未だにその技術は確立していない。むしろ、時間経過とともにその困難性がより鮮明になってきた。デブリの分布や形状はデブリ取出し作業が当初の想定より困難であることを示し、取り出しロボットも未だ開発過程にある。さらに格納容器内の高い放射線レベルも作業を困難にしている。けれども、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)、国際廃炉研究開発機構(IRID)、日本原子力研究開発機構(JAEA)などを中心とする研究機関や関連企業は、希望的な目標に固執したまま、多額の費用と多大な労力を投入し続けている。筆者らはすでに、高線量のデブリを移動させることはかえって外乱を加えて周囲に放射能を漏えいさせるものと考え、安全性と経済性を優先して、デブリ取出し作業を100 年後、200年後に延期するか、または半永久的に現在の位置に保管することを提唱してきた。しかし、当事者たちが2022 年度からデブリの取出しを開始する予定に固執している現状に鑑みより具体的な検討を行って、ここにデブリの「長期遮蔽管理方式」を提言することとした。
デブリを長期に安定的に保管する方法として、デブリの冷却を空冷化することを前提としているが、そのことは新たなトリチウム汚染水の発生を止め、現在社会問題化しているトリチウム汚染水の海洋放出を避けることにつながる。また、これによって、原子炉建屋内のドライ化も可能になり、周辺環境の安定化に資する。現在、事故後10 年が過ぎた結果、デブリの崩壊熱が大幅に低下して、空冷に無理なく移行できる。ここに提唱する方式を着実に実施していけば、現行「中長期ロードマップ」のデブリ取出しによる放射能飛散のリスクと巨費の投入を解消できる。この提言が関係の方々のご再考に資すれば幸いである。(本文「はじめに」より)
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